2012年7月12日木曜日

僕らがディズニーを楽しめなくなる日

1年前くらいに書いた記事を、手直しして、今アップします~^^
……
……
……


なにか楽しいことがあった日の帰り道は、どこか寂しい。
愉快な友人とのドライブとか。
やんちゃなサークルの飲み会とか。
大好きな人とのデートとか。


その日も、その例にもれなかった。
その日は確かに楽しかったから、帰り道が寂しいのは当たり前のことだった。
でも、明らかにいつもの寂しさとは異なる感情が、胸の中を渦巻いていたことに、僕は気づいてしまった。


……


僕の表情を読み取ったのか、君は尋ねた。


「どうしたの?さっきから浮かない顔してるよね。」


うん。そうなんだ。
言いよどんだけど、思ったことは全部言ってしまう関係だったから。


「なんだか、大人になることが怖くなってしまったよ。」


自分の口からそんな言葉が出たことが意外だった。
なぜって僕は、大人になることが楽しくて仕方がない人間だったのだ。
だって、「大人の男」って格好いいじゃない。
ちょっと髭がオシャレに生えてて、日本の経済や政治を憂えながら、ウイスキィを舐める。
そんな大人に憧れていたから。


でも、その日は違った。
僕たちは夢の国へ行ってしまった。
夢の国で、夢の世界を楽しんでしまった。
僕たちは、まだまだ子供だったんだ。
その事実が、あった。
「どうして?」
と、君は尋ねる。


僕たちは最寄駅が同じだったから、二人とも自転車に乗って帰っているところだった。
僕は答える。


「今日は楽しかった、本当に。
でも、僕たちはあと何年間、ディズニーランドを楽しめるんだろう?
五年後には、もう夢の国を楽しむ心を失ってしまっている気がする。
子供の心で、楽しめなくなるんじゃないだろうか?
なんか、そんなことを考えたら、怖くなってしまった。大人になるのが、怖い。」


うーん、とちょっと悩んでから、君は言う。


「確かに、子供の気持ちでもう遊園地を楽しめなくなっちゃうのかも。
でも大人になることって、そんなに悪いことじゃないんじゃない?
堺雅人とか、かっこいい大人っていっぱいいるじゃん。
かっこよく年を取っていく、って言うのかな。
女性で言うと、だれだろう。
まあとにかく、私は大人になることもいいことだと思うよ。」


一理ある、と思ったが、僕の漠然とした不安に対する答えにはならなかった。


「言いたいことは、わかる。
でも大人になってしまうという無機質な事象を前に、あまりにも僕らは無力じゃないか。


「そんなこと言ったって、しょうがないよ。
それにね、いつか子供ができた時に、家族でディズニーに行くの。
そうしたら、思い出すよ。子供の心を。
子供には戻れないけど、思い出すことができる。」


君の答えに、僕は満足しなかったのだろう。
このメランコリー、このノスタルジー。
今日が楽しかったのが悪い、と思った。
もう一度、今日の朝が来ればいいのに、と。
もう僕が、今日という日を生きることは、たとえどんなにテクノロジーが進歩したところで絶対にないのだ。
もう、二十歳なんだ。
これからどんどん年を取り、大人になり、死んでいくのだ。


「それじゃあ、ばいばい。」


君は、夜の道に消えて行った。


……


生きることって、純粋に楽しいことだと思ってた。
今までの人生はそれなりにうまくいっていたと思うし、
他の人が嫌いに思うこと、たとえば勉強なんかは、僕にとってはとても楽しいことだった。


でも、そうやって色々な体験をすることが、僕は怖くなる。
もう二度とやってこない「今」に、どうしようもない不安を覚える。
どうせ僕らは「今」を二度と体験できないのだ。
そしてみんな、死んでゆく。


深夜、一人で自転車に乗りながら、ずっとそんなことを考えていた。
僕は歩きながら考察を進めようと思い、自転車から降りた。
家路を歩いて辿る。
すると。
こつん、と何かが脳みそに響いた。
なんだろう。
僕は記憶の糸を辿りよせる。
あの日の、声が蘇る。


……


「…これは、死の魔法という曲のアンサーソングです。」


ライブ会場だった。
たしかにボーカルの男の子はそういったのだ。
死の魔法。
それはこんな歌だ。


WOW 僕の中で戦う天使も悪魔も
何か始まる朝も何か終わっていく夜も
愛も憎悪も全てこんなに僕は好きなのに
どうして死んでしまうの?

WOW 始まったものはいつかは終わっていくんだ
「今」を生きるということはソレを受け入れて生きること
僕は大切な仲間や愛する人がいるのに
どうして「今」という時間を大切に出来ないんだろう

WOW 僕は過去も未来もこんな好きなのに
どうして「今」を愛せないんだろう

死んだらどうなってしまうのだろう、そういう歌。
それは、今僕が抱いている感情と同じだった。
これに対する、アンサーソング?
彼らは、あの時、何を歌った?


「では、聴いてください。新曲です。不死鳥。」


あの日。
今から1年前の12月。
そのバンドマンはとても輝いていた。
歌う姿が眩しすぎて、僕は涙を流しながら、ボーカルの姿を見ていた。
隣では、君とは違う女の子が、踊るように音楽を聴いていた。
不死鳥という歌は、あまりにもかっこよかった。


もしもこの聖なる星が降る夜が 
最初から存在しなかったのなら 
あの真っ白な世界を朝とは呼ばないわ 
終わりの無いものなんて 
最初から始まりなんて無いの


あの時、僕はちゃんと歌詞を噛み砕いていたのだろうか。
自分のものにしていたのだろうか。


死がくれる世にも美しい魔法 
今を大切にすることができる魔法 
神様 私にも死の魔法をかけて 
永遠なんていらないから 
終わりがくれる今を愛したいの


僕は、夜の道を歩きながら、そしてiPodから流れる音楽を聴きながら、
ずっとそのライブを思い出していた。


……


アーティストに答えを求めるのは、少し安易なやり方だろう。
でも、僕はごく自然と、そのライブを思い出してしまったのだ。
そして、アーティストにとっても、そのくらいの奇跡はあった方が嬉しいんじゃないだろうか。


きっと、そういうことだったのだ。
死が与えてくれる魔法。
それは、今を大切にすることができる魔法。
終わりはたしかに怖いことだけど、だから、今を愛せるのだということ。


僕も君も、これから大人になっていくのだろう。
そして、いつか、今日を懐かしく思う日がくるのだろう。
「あの頃のようにはしゃぐことができたら…」
僕らはきっとそう言うのだ。


でも、だからこそ、僕らは今を大切にできるのだ。


0 件のコメント:

コメントを投稿