2012年5月9日水曜日

あの子は可愛い女の子

ショートショートです。

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幸せってなんだろう、ってこの頃よく考えてる。

自慢じゃないけれど、私は男性にモテるほうじゃない。

もう少し異性を惹きつける魅力が私にあったらなあ、とか。

そうしたらもっと幸せだったんだろうか。

そんなことでくよくよ悩んだり。

毎日、退屈なわけじゃ決してないけれど、こんなに可愛い女の子が隣にいると、ね。

……

浮かんできたのは、やっぱり、という感情だった。

男ってわかりやすいんだから。

ばればれ。

その、男特有の積極さは、ちょっぴりうらやましくもあるんだけど。

さっき、私たちに声をかけてきたノッポさんは、もう私のことなんてそっちのけで、

隣の綾乃を文字通り質問攻めにしている。

のの。のんのん。

名前が可愛いから、それだけで話題の的となる要素を持っているのに、

彼女のずるいところは、見るものをすべて惹きつけるその容姿にあった。

目は当然のようにパッチリしていて、口元は、女の私でもキスしたくなるほどセクシー。

身長はあまり高くないんだけど(皮肉なことにそれがまた男性陣のツボを誘うのだが)、

ショートで切りそろえた前髪が、とても雰囲気に合っている。

ザ・モテ子って感じ。

そんなのんのんは、なぜか私のことを親友として選択してくれた。

選択っていうと、なんか妙な響きがあるけど、あれはたしかに選択だったと思う。

「私、サヤカのこと親友にするからね。」

理由はわからない。

嘘。本当は気づいてるけど、口に出したくないだけ。

彼女は、引き立て役として私をえらんだのだ。

高校生の頃の私は、その言葉を真に受けてしまうほど純粋だったのだけれど。

今は、ちょっぴり変わってしまった。

……

大学も同じとこに進学してしまった。

本音を言うと、違う大学に行きたかった。

そして行こうとしていた。

でも、私はW大に落ちてしまい、親からは浪人の許可がでなかったから(私自身、する気なかったし)、

結局、のんのんが第一志望で受かった大学、つまり私の滑り止めの大学に進学した。

中堅私大っていうのかな。

内部進学者も多いから、とにかく見るからに馬鹿そうな男が多くて、

入学式の日から私は内心うんざりしていた。

でも、のんのんは楽しそうだ。

というより、彼女はいかなる状況下においてもモテるから、楽しくないわけがない。

と、内心で毒づいてる自分が、実は嫌いだったりする。

……

今日は、いわゆるテニサーの新歓というイベントに、のんのんと二人で参加した。

まあ、ただの飲み会なんだけど。

馬鹿みたいな先輩が馬鹿みたいにお酒を飲んでて、何が楽しいんだろう、と思いながらその光景を眺めていた。

同じ席の先輩が教えてくれたのだけれど、新歓期は1年生にはあまり飲ませないという決まりがあるらしい。

だけどひとたびこのサークルに入ったら、君たちもそんな綺麗な状態じゃいられないよ。

ということらしい。

綺麗な状態じゃいられない、という言葉の真意を量りかね、私はあいまいにうなずいた。

そんな感じで、1次会は終わった。

「行きたい人は2次会のカラオケにいきましょー!」

と締まりのない声で幹事らしき先輩が叫び、酔っぱらった先輩たちがそれに続いて叫ぶ。

のんのんは?

あわてて周りを見渡して探したら、酔っぱらってるのかにこにこ笑ってる彼女を見つけた。

「サヤも、もち2次会いくでしょー?」

べたーっと腕にからまりついてきた。

そして、こういう目で見つめられると断れないのが私だった。

……

2次会のカラオケまでは、少し歩くらしい。

安いところを選んだらそうなったのだとか。

そんなわけでのんのんと二人で歩いていたところを、ノッポさんが声をかけてきたってわけ。

わかりやすい男っぷりを遺憾なく発揮している彼は、

私の白い目線はもはやまったく意に介さないらしい。

私は二人が楽しそうに話しながら歩く後ろから、手持無沙汰にそれを眺めてた。

なんでのんのんって、こんなにモテるのかなあ。

容姿が可愛いのは、認める。

さすがにそれは、認める。

でも、どう譲っても、性格は美人だとは思えない。

なんで男は、女を外見だけで判断するんだろう。

もっと、中を見てよ。彼女の中を。中心を。

なんで私って、こんなにモテないのかなあ。

顔だってそこそこは可愛いと思うし、性格も、いいし。

やっぱりのんのんが隣にいるから?

みんな、彼女に惹かれちゃうの?

私たちが親友でいる理由って、なに?

もはや親友ってなに???

そもそも、こんなことを考えている時点で、私って性格よくないのかも。

むしろ悪い。

こんなんじゃ、一生彼氏できないなあ。

……

「ねえねえ」

私じゃないよね、と思って振り返らなかったら、突然肩を叩かれた。

「ねえねえ!サヤカさんだよね?」

振り返ると、そこには先ほどの飲み会でテーブルが同じだったケンキがいた。

同じ新1年生。

通りがうす暗くて顔はよくわからないけど、低めの渋い声でわかる。

あまり飲んでいないのか、その声は自己紹介の時からなんも変わってない。

「そうだよ。サヤカでいいよ。

どうしたの?」

彼は少しそっぽを向いた。

暗がりの中、目を凝らしてみると、意外と鼻が高く、整った顔立ちをしている。

少し間が空いて、さっきと同じ渋い声で言った。

「俺さ、声低くて、カラオケ苦手なんだよね。

よかったら、この後、二人でどっかで飲みなおさない?」


うん。

そう頷いたら、彼の左手が、すぐに私の右手をつかんだ。

「じゃあ、いこ。」

彼の横顔を見上げる。

頬が赤いのは、おそらくお酒のせいだけじゃないのだろう。

そんなことを酔った頭で考えていた。





続編 「雨の下に、愛は宿る」

http://shumpeism.blogspot.jp/2012/05/blog-post_29.html



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