2012年8月13日月曜日

その国に住む人は、どこか変だ。

その国に住む人は、どこか変だ。
みんな中毒者である、という点で変だ。

……

しかしながら、その国に住む人の国籍は様々だ。
イギリス人もいるだろうし、ロシア人のそれはどこかメランコリニスタと近いだろう。
もちろん日本人もいる。
その国に住む人は、世界中にいる。

……

彼らはいつも本を読んでいる。
それも、ものすごいスピードで。
まるで呼吸するようにページを繰り、頬をゆるませる。
時には美しい涙を流す。

……

僕が初めて、その国に住む人に出会ったのは、家の中だった。
とある小説を、僕は姉に貸したのだ。
それ自体は特別な現象ではなかったと思う。

30分後に、姉がその本を持って僕のところにきた。
僕は、「今読みたい本があるから、先にあんたが読んで」みたいなことを言われるのだと、てっきり思っていた。
30分で、まさか読み終わるわけがあるまい。

しかし、どうだろう!
彼女が発した言葉はまったく違った。
「おもしろかった。」

僕は、確信した。
「あゝ、この人は、違う国の人なのだ。」
そして、僕もその国に住んでみたい、と思うようになった。

……

その国に住む人の特徴は、
「読むのが恐ろしく速い、1日1冊読まないと気が済まない」
などが挙げられると思うが、本質はそこにはない。

とにかく、本が好きなのだ。
本の面白さと、本が与えてくれるものを、本能的に知っている。

トリップだ、と僕は思う。
それはどちらかというと、麻薬に近いのかもしれない。

……

あれから幾星霜。
僕もだいぶ本を読むのが速くなって、読むジャンルも多様化した。
でも、まだまだ。
その国に住む人には、きっと、ずっと負けている。

翻って、その国の住人は、めっぽう減ってしまったように思う。
IT社会の進展を通して、いわゆる「本の虫」と呼ばれる人は、ほとんどいなくなった。
それは、つまり、本の国からの「移住」を余儀なくされているのだ。

でも、僕が出会った社会人の中で、「この人はすごく頭がいいなあ」と思う人は、ほぼ例外なく相当な読書家だ。
それは、ベンチャー企業の社長、とかであっても同じだ。
頭がいい人は、みんな本の国に住んでいる。
その国で得られるものが、対価として支払ったお金の比ではないことを知っているからだ。

……

みんな、どうせなら、本の国の住人になってほしい。
それは、活躍したいジャンルを問わず、必ずあなたの財産になるから。


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